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消えた少女
高橋哲也
 林を抜けた小道で少女が立っおいる。足元には鏡面を䞊向きにしお䞉面鏡が草の䞊にじかに開かれおいる。鏡の衚面には癜い光があるだけで少女のすがたは映っおいない。少女はたるで人圢のようにぎこちなく立ち尜くしおいる 。続いお少女の衚情が捉えられる。かすかな嫌悪ずいったものが読みずれないこずもない。その芖線の先には開かれた鏡の面に人圢が少女ず同じく䞈の短い癜い衣装をたずっお座っおいる。
その巊の手には赀い毛糞が巻かれおある。次に少女の巊手が映るず、それにも同じように赀い毛糞が巻かれおある。さらに背䞭向きの少女ずこちらを向いた人圢が同䞀画面内におさたるず、少女の巊手に巻かれおあるのず人圢の巊手に巻かれおあるものは同じ赀い毛糞の䞡端であるこずが瀺される。少女は慌おたようにかがみ蟌むず䞉面鏡を閉じ、逃げるように林の方ぞ立ち去っおいく。
 
 以䞊は人圢がこの䜜品に初めお珟れるシヌンであるが、ここで䞀芋しおわかるのは人圢が少女の鏡像ずしお珟れおしたうこずが吊定されおいるずいうこずである。確かに、その空間的配眮から、その盞䌌性から、人圢を少女の鏡像的自我のメタファヌずしお䜍眮づけたい誘惑に駆られはするのだが、赀い毛糞の巻かれおいるのがどちらの偎も巊の手であったこずを思い返しおみれば、鏡像であればありえない事態がそこで起こっおいるずいうこずに気付くだろう。鏡に写した私の巊手は、鏡に映ったワタシの右手でなければならないはずだからである。鏡の面に立ち珟れた人圢が備えおいるのは、鏡像の芪和性を食い砎り、䞍意打ちのように鏡のこちら偎に突出しおくる、犍々しさである。

 ダンボヌルの小屋の内郚ずいうにはあたりに広すぎる、ダンボヌルを匵り巡らせた郚屋の内郚は薄暗く、郚分的に橙色に光を透過しおいるあたりから匱い拡散光ずなっお郚屋をわずかに浮かび䞊がらせおいる。その真ん䞭あたりで、ダンボヌルの巻物のように芋える円筒圢から、少女がたるで怍物が芜吹くように産たれおくる。そしお芖芚ずいうものがあたり圹に立たない暗がりのなかで、ダンボヌルの襞に同化しおいた状態ぞず戻ろうずするかのように、床に身を擊り぀けたり、異物ず化した「からだ」をむずかるように転がしたりしおいるのだが、やがおダンボヌルの光の透けおいる箇所を砎り、倖に出お行く。テヌブルの眮かれおある庭の光圩に驚き、二階の開いた窓に赀い毛糞の束が揺れおいたりするのを眺めた埌、先ほど曞いた人圢ず出䌚うシヌンぞず぀ながっおいく。

 階段にもたれかかっおいた少女をかすめるようにしお、赀い毛糞玉が階段を転がり萜ちおくる。私たちは䞃里圭監督の『眠り姫』においおも、階段を倧きく匟みながら萜ちおいく小さな球䜓を目にしたはずだ。その球䜓は癜いピンポン玉であったのだが、䜕か飛び出した目玉が無人の校舎を巡り歩くような、ずがけた䞍気味さずいったものを芋るものの内に呌び起こす。誰もが慣れ芪しんだような孊校の颚景は䞀倉し、郷愁ずは無瞁の、䟋えば殺害が行われた堎所のような䞍吉な圱を垯びる。やがおピンポン玉は、それを投げ萜ずした䜕者かの手に舞い戻る。䜕故かはわからないが、䞃里監督の䜜品䞖界においおは、球䜓の転がる運動は、最埌にはそれを攟った者のもずに立ち返るこずになるからである。そしお赀い毛糞玉もそれを攟ったものの誘匕に導かれお、少女ずずもに階段を䞊っおいく。二階の郚屋に蟿り着いた少女は、倩井からびっしりず垂れ䞋がった、倖郚に晒された血管が繁茂しおいるように芋える赀い毛糞の房の䞭で、人圢の隣に、操り糞の切れた二䜓のマリオネットのように䞊んで座るこずになる。しかし毛糞玉を攟ったのは人圢だったず結論付けるわけには行かない。䜕故なら、この二階の郚屋は埌に芋るように、今䞀぀の存圚によっおも自由に出入りするこずが可胜な堎所だからである。

 郚屋同様に青く塗られた流し台に座っお、赀い毛糞をむンディオが鳥の矜根で䜜る戊闘服のように身に纏い、ずいうよりも赀い毛糞の房に手足が生えた粟霊のようになっお少女は癟合の花びらを所圚無さそうに指や口を䜿っおむしり取っおいる。花占いででもあろうか、少女は誰かを埅っおいるのだろうか最初芋たずきは癜かったはずの癟合の花びらが薄赀く色付いおいる。少女は時おり残忍そうな衚情を浮かべお、黙々ず癟合の花びらを散らす。癟合の花蚀葉は『玔朔』それが転じお女性同性愛の含みを持぀こずを知っおしたっおいる者ずしおは、あたりに無防備に攟恣な情欲をさらけ出しおいるようにも思えるのだ。

 今や少女などいはしなかったず蚀っおしたいたい欲望にかられる。そこには成熟した女性の、厚みのある぀ややかな肉䜓が投げ出されおある。圌女が鏡を芗くずき、圌女は自らの姿を芋るこずから自らを守るように、鏡ず自分の「からだ」のあいだに人圢を挟み蟌むこずを忘れたりはしない。そのような自己吊認の衚れが少女だったのだろうか。しかし人圢の䞋腹郚に赀黒く浮き出た「アザ」は、女陰でもあるずいえようし、それを去勢の痕跡のごずく忌み嫌っおも、消すこずの出来ないしるしはその攟恣で無軌道な情欲によっお、たた歯止めのない倚産性によっお、「隠せないアザ」ずなる。

 土で出来た「アザ」が青く塗られた郚屋の壁ず蚀わず床ずいわず殖えおゆき、その様は倧海に島が次々ず産み萜ずされおいく様に䌌おいお、䌊邪那矎呜が「吟が身は、成り成りお成り合わざる處䞀處あり」などず自らの女陰を指し瀺しながら男神に蚀い寄り、、男神ずの亀合によっお次々に「囜土」を産み萜ずしおいったこずが思い合わされもするであろうが、この青い郚屋の䜏人である少女を装うむザナミノミコトはわれわれの知らないずころで、圌女のむザナギノミコトず亀合しおいたずいうわけなのだろうか

 女が通るのを知っおいたみたいに川沿いの土手に腰を䞋ろしおいる、浮浪者態の男などは、そういえば男神ずも芋えなくもない。吹いおいた叀めかしいクラリネットをおもむろにしたい蟌み、誘うようにのろのろず茂みの䞭ぞず入り蟌んでいく。その衚情は、フヌドを目深く被っおいるせいで、顔そのものが圱ずいうか闇ずいうか黒く煀けおいおわからない。だから本圓は圌が男であるかどうかはわからないのだが、クラリネットは、再び『叀事蚘』を持ち出せば、「我が身は、成り成りお成り逘れる處䞀處あり」ずいうずころの男根なのだず、無理にでも䜍眮づけお芋たくなったりもする。女は情欲に也いたずいうのでもなく、むしろ捕らえる぀もりもないのにネズミを远い回す猫のような颚情で、男の足取りを蟿っおいく。時折吹く匷い颚が、䞈高い草を揺らしおいる。

 しかしこれは奇劙な逢匕きである。男が占めおいた堎所に女が蟿り着いた時にはすでに男はそこにいず、男が匕いおいたキャリヌバッグが残されおいお、女は䞭から赀い毛糞の束ず、薄緑色のビンを取り出すこずになる。
この薄緑色のビンが圢状においおクラリネットの代替物であるずしおも、この物質が垯びおいる透明で空虚な矎しさは、叀びたクラリネットが有しおいたような重厚さずは異質である。぀いでに指摘しおおくのだが、クラリネットは吹くずいう行為によっお「颚」ず関係しおいようし、ビンの方は「氎」を汲んで飲むこずや、癟合を掻けるのに䜿われおいた。そしお男は颚の振る舞いを真䌌るように去っおいく。䞀人残された女は焌け焊げたされこうべのような物䜓に向かっお亀情を仕掛けるように、赀い毛糞を幟重にも絡たせる。しかし、こう芋るこずもできよう。぀たり、これは生誕の堎面なのだ。男ず女の床重なるすれ違いずは、颚が皮子をあおり、飛散させ、その䞊に慈雚がふりそそぐこずで皮子を芜吹かせるように、ここに奇異なかたちを芜吹かせたのだず。

 ステヌキを扱うファミリヌレストランで倚分アルバむトなのだろう若い女ががんやりず、鉄板の䞊で肉が焌けおいく様をながめおいる。なんずいうか鬱屈のようなものが圌女の働くさたに衚れおいる。「昚日、圌が 私のからだをみた。」ずいう出来事が気にかかっおいるのだろうか。それに、ファミレスずいうずころは、薄い仕切りのようなもので客同士のあいだも客ず店員のあいだも隔おられおいお、それぞれのあり様がたるで箱のようになっおしたっおいる。やがお、それぞれが自らの重みのなかに沈み蟌んでしたうたでに。

 若い女は自宅アパヌトに戻っおもその薄い仕切りの内偎にいお、同居しおいるらしい若い男ずのあいだも隔おられおいるかのようである。「からだを芋た」ずいうほどの関係にしおはよそよそしい。砎局のささやかな萌芜すら感じられる。若い男が去った埌の宀内で䞀人、菓子箱を重ねたり、䞇華鏡か望遠鏡のように目の前にかざしたりしおいる。その箱の内郚に芋えるがごずくに、鉄塔の䞋の空き地にぜ぀んず眮かれたダンボヌルの小屋があり、今、䞀人の女が、譊戒し぀぀もその䞭ぞ入っおいこうずしおいる光景が立ち珟れる。これは同じ女であろうか確かに颚貌は瓜二぀である。もし同じ女であるずするなら、倢を芋おいる自分ず、倢に芋られおいる自分ずに分離しおいるだけだずいうこずになろう。しかし譊戒しなければならない。『汚れた血』のなかでゞュリ゚ット・ビノシュはアンナずいう名の女ずもう䞀人の女ずに分裂しおいたのだし、映画の配圹においお䞀人二圹ずいうのは珍しくもないのだから。

 実は、若い女は勀めるファミレスからの垰り道に、フヌドを被った浮浪者態の男ず出䌚っおいたのだ。さらに、映画の䞭盀あたりで、倜、ファミレスに勀めに行く途䞭のトンネル内でも、圌女はフヌドの男の前を通り過ぎなければならなかった。最初に芋たずき男はほっそりずしおどこかしら愛嬌すら感じられたはずなのだが、トンネルで芋かけた男は、闇の䞭から重々しい足を匕きずるようにしお珟れ、眮いおあった゜ファにどっしりず腰を䞋ろす様を芋おも、たるで別人のように嵩が増え、病み぀いたような犍々しさが挂っおいた。ネズミに喩えるなら家ネズミずドブネズミほども違うのだ。

 家ネズミの男の方は、川瞁の茂みで女ず逢匕きにも䌌た远いかけっこを挔じるこずになるのだが、その顛末は先ほど芋おおいたように、䜕か悲恋めいた堎面『ひたわり』のようなに行き着くこずになる。䞀人取り残された女は髑髏のような物䜓に赀い毛糞を絡たせた埌、ビンを手にあおどなくススキの生い茂る道を行き぀戻り぀し続ける。赀い倕陜が圌女の顔を照らしたかず思うず、次には圌女の肩越しに背埌に沈みかかっおいる。恐らくはその倕陜が沈んでしたい、党おが闇に溶け蟌むたで、圌女はさたよい続けるしかないのだろう。

 ドブネズミの男の方は、川瞁から男が姿を消した埌、男だけが埀還できるにちがいない秘密の抜け穎を通っお、青い郚屋の二階の赀い毛糞の匵り巡らされた郚屋に颚を䌎っお珟れる。男がバルコニヌから重々しく郚屋に螏み入るず、疫病を運ぶ颚に吹かれたみたいに、赀い毛糞の房は䞀瞬にしおどす黒い色にくすんでしたう。赀い毛糞玉を階䞋に攟っお、少女を人圢に出䌚うように仕向けたのもこの男の仕業であったのかもしれないずの疑いが生じるのは、この男の自圚性を目のあたりにするからである。それたで青い郚屋にいた少女が気配を感じお二階に䞊がるず、男はネズミのような、颚のような自圚性を発揮しおすでに階䞋に姿を珟し、人圢を抱きかかえ、床に寝かし぀け、呪いでもかけるように手をかざす。その時、二階の少女は殆ど人圢ず化しおしたったかのように、硬盎しお座っおいる。ややあっお、どれほどの時間が経ったのか定かではないが、少女が階䞋に䞋りおくるず、青い郚屋の壁は倉質しお沌沢地のようなどす黒い色に倉じおしたい、人圢はもずのように寝かされおあるが、ドレスは胞元たでたくし䞊げられお、顔を芆っおいる。䞋腹郚にあったはずの「アザ」は消えおいる。そしお顔を芆っおいたドレスを匕き䞋ろすず、顔がどす黒い「アザ」で芆われおいる。戒めを受けたもののように、あるいは報いを目の圓たりにしたかのように、少女はたじろいであずずさる。男の挂わせおいた嚁嚇的で抑鬱的なオヌラは、圌が少女にずっお父芪であるこずを物語るかのようであり、だずするなら、この「報い」は起こりうる過ちをすでに起こっおしたった灜犍の珟前によっお抑止する「法」の顕珟なのだろうか。女母ず、少女嚘を隔おる薄い皮膜のような仕切りは、男においお可䟵食性をも぀のだが、それは予め犁止されおいるずでもいうように。

 ラスト近く、ファミレスで若い女が菓子箱を積み重ね、その仕切りを取り払うこずで「家」ぞず結合させお䜜ったミニチュアハりスを、郷愁の籠もる目で眺めおいるシヌンがある。圌女がその「家」に決しお入るこずが出来ないように、女母ず、少女嚘のいずれにも同䞀化するこずの蚱されない「からだ」はこの愛の共同䜓から締め出されおいる。少女は身に受けた過ちそれが充党な愛の幞犏に満ちたものだずしおもを償うかのように、誕生の圢芋であるダンボヌルを、家族の拠り所の空虚な蚘号のようなダむニングテヌブルの䞊で燃やし尜くす。もちろんそんなこずではこの過ちは拭い去るこずはできない。むしろ圌女はあえおその過ちのしるしを身に纏おうずするように、ダンボヌルずテヌブルの焌け萜ちた灰を顔に擊り付ける。その傍らには、人圢ずしおの生呜を終えた抜け殻のような人圢が、怅子に行儀良く据えられおある。䜕も知らないたた、愛の共同䜓の䞀員ずしお、か぀お圌女自身がそうしおいたように。

 人圢ず盞䌌化するこずで少女ずしお振舞おうずする詊みは、「生誕のしるしアザの英蚳birthmarkを井川耕䞀郎氏が矎しく読み替えた文章を参照のこず」「アザ」を持぀ものにずっおは倱敗を宿呜づけられおいたに違いない。人圢を切り萜ずした赀い毛糞で埋葬し、「家」をあずに立ち去る少女の䞊に、颚が散らした赀い毛糞が、降っおくる。圌女はいずこかぞ向かっお旅立たねばならない。それを芋送るように「愛」「絆」「情熱」の血の赀を垯びた雚が降り続ける。それはもはや毛糞ではない。葬られたのが人圢ではなく立ち去っおいくものがもはや少女ではないのず同じように。

 たるでハヌメルンの笛吹きのように、しかしクラリネットを吹いお「ネズミ人間」ず呌ばれおいる䟋のフヌドを被った男が、氎打ち際を通っおいく。ネズミず笛吹きが䞀぀の圱のような埌姿のうちに溶け合っおしたう。鉄塔の䞋にあったず思しきダンボヌルの小屋が、今は危うく氎に没しかかるように眮かれおいる。その内郚から、クラリネットの音色を慕うように這い出おきたのは、少女ず呌ばれおいた「からだ」である。「箱の䞖界」からするず少女の消滅であったものが少女の偎から芋れば「箱の䞖界」の消滅ずなるずでもいうかのように、ダンボヌル小屋、コンクリヌトでできたチュヌブ状の配管、突き出た朜ち朚以倖の圢象、たた、倪陜の沈みきった空の仄かな茜色以倖の色圩は、拭い去られでもしたみたいに消え去っおいる。あるか無しかのごく僅かな悲哀を挂わせおいる他は、ほずんど空っぜになっおしたったような「からだ」は、氎の䞭に歩み入り、コンクリヌトの管の䞊に座り、他の䞃里䜜品での「からだ」たちの所䜜を反埩するように、たたこの『ホッテントット゚プロン‐スケッチ』でも床々目にしたように、身を暪たえる。氎が這い䞊がっお来お、ダンボヌル小屋もコンクリヌトの管も溶けるように没しおしたっおも、暗がりのいや増すたそがれにがんやりず癜く挂っおいる「からだ」は、い぀しか人圢のそれにすり倉わっお、タブロヌのなかに描き蟌たれた画家自身の埌姿のような男の圱が、それを芋守るように、こちらに背を向けお立っおいる。氎のあちら偎の境界は、おそらく珟実ず呌ばれおいるであろうような、高速道路の䞊のあわただしいヘッドラむトの行き亀いを垣間芋させお、やがおすべおが、黒に、溶けた。