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『ホッテントット゚プロン・スケッチ』・スケッチ
井川耕䞀郎
 䞃里圭ず蚀われおたっさきに思い出すのは、十数幎前のこずだ。たしか、数人の仲間で集たっお飲んでいたずきだったず思う。䞃里ががそっず「がくは子どもの頃にノッポさんず遊んだこずがあるんですよ」ず蚀ったのである。
 ノッポさんずいうのは、教育テレビの児童向け工䜜番組『できるかな』に出おいたおじさんのこずだ。セリフを䞀蚀も蚀わず、パントマむムなどをたじえながら、段ボヌル箱などでどんどんいろんな遊具を䜜り、スタゞオ内を別䞖界に倉えおいくのである。そのノッポさんを挔じた高芋映が䞃里の身内ず知り合いだったそうで、その関係で子どもの頃に遊んでもらったこずがあるずいうわけなのである。
 「遊ぶっお、やっぱり段ボヌル箱で工䜜をやったのか」「ノッポさんは普段から無口だったのか」などず私たちは次々ず䞃里に質問したのだが、その間ずっず圌の口もずはひくひくしおいた。たぶん、倧笑いしたかったのだろう。たしかにノッポさんず遊んだこずがあるずいうのは、自慢したくなるような䜓隓だ。たったく、うらやたしいや぀である。
 䞃里圭の『ホッテントット゚プロン・スケッチ』を秋葉原で芋たずきにたず思ったのは、結局、ノッポさんず遊んだや぀はこういう映画を撮る運呜にあるのだ、ずいうこずだ。たずえば、映画の䞻芁舞台ずなっおいる森の䞭の廃屋。壁に塗られた青いペンキや、貌り぀けられた粘土、倩井からたらされた䜕癟本もの赀い毛糞などを芋おいお䞀番匷く感じるのは、工䜜するこずの楜しさだ。それに、圹者が䞀蚀もセリフをしゃべらないずいう構成も『できるかな』を思い出させるずころがある。そういえば、灰色の雚合矜を着た顔の芋えない登堎人物 ヌ 「ネズミ人間」ずいうらしいのだが ヌ がクラリネットを吹いおいる姿には、ひずを別䞖界ぞず誘うような雰囲気があっお、どこかノッポさん的ではなかったろうか。

 だが、それにしおも、『ホッテントット゚プロン・スケッチ』ずは、䞀䜓どういうお話の映画なのだろうか。実はこのこずはちょっずやっかいな問題だ。
 映画の出だしに出おくる「昚日、圌が私のからだを芋た」ずいう字幕や、人圢の䞋腹郚にある黒々ずした染みなどから察するに、阿久根裕子挔じる少女の䞋腹郚には痣があるようで、そのこずに圌女はコンプレックスを感じおいるらしい「あるようで」ずか「感じおいるらしい」ずいった曖昧な曞き方をしおしたったのは、阿久根裕子の䞋腹郚が画面にはっきり映るこずがないからである。
 ずいうこずは、『ホッテントット゚プロン・スケッチ』は、少女が倢想の䞖界での䜓隓を経お、コンプレックスを克服するきっかけを぀かむずいうお話なのだろうか。しかし、ここがよく分からないずころなのだ。本圓にそういうお話なら、ラストで少女は珟実の䞖界に戻っお、「圌」ず呌ばれる人物ず向き合うずころで終わるべきだ、ず思うのだが  。
 新柵未成ずいうひずが曞いた映画の原案ずなった散文詩は、他者の芖線に痛みを感じるこずの蚘述から始たっおいる。そしお、䞻人公の「私」は「二次元の女」に誘われお別䞖界ぞず入っおゆくのだが、他者の芖線がない䞖界はほずんど死ずすれすれの䞖界だったのだろう。「私」は危ういずころたで行っお目を芚たす。そしお、「私」は「圌」から「総おは、私の幻芖であった」ず聞かされるこずになる。途䞭、かなり奇劙なノィゞョンが展開しおいるが、䜕ずか珟実に戻ろうず詊みおいる点で、この散文詩は芋た目よりずっず健党で分かりやすいず思う。
 䞀方、映画『ホッテントット゚プロン・スケッチ』のラストは、誰もいない深倜のファミレスで少女がお菓子の箱で぀くった家をがんやり眺めお、たた倢想の䞖界に入っおいっおしたうずいうものだ。しかし、他者のいない珟実など、珟実のうちに入らないだろう。ずいうこずは、この映画はコンプレックス克服のドラマずしおは未完成ずいうこずになる。䞀䜓、䞃里は䜕を思っお、こんなラストにしたのだろうか。

 おそらく、『ホッテントット゚プロン・スケッチ』ずいう映画は、珟実から倢想ぞ、倢想から珟実ぞず埀還する映画などではないのだ。ファミレスでバむトし、アパヌトで圌ず䞀緒にすごしおいる少女のシヌンもたた、森の䞭の廃屋のシヌンず同じように、倢の䞭の䞖界であるにちがいない。芁するに、映画の䞭で描かれおいるこずはすべお少女が芋た倢であっお、倢を芋おいる少女の珟実は映画の倖に抌し出されおいるず考えるべきなのだろう。
 こりゃあ、ずいぶんず面倒くさい映画の感想を匕き受けおしたったぞ、ず私は぀い぀い思っおしたう。映画の倖に存圚する珟実の少女はたちがいなく䜕らかの問題に盎面しおいるはずで、その問題が倢の䞭では䞋腹郚の痣ずなっお珟れおいるのだろうずいうずころたでは䜕ずか分かる。だが、私は粟神分析医ではないのだ。倢だけを芋お、その人の珟実を的確に蚀い圓おるような胜力など持っおいるわけがない。
 しかし、ずりずめのない感想になるかもしれないが、それでも䜕ずか『ホッテントット゚プロン・スケッチ』に぀いお曞き続けおみるこずにしよう。ちなみに、この映画は少女が芋た四倜の倢を蚘録したもののように私には思えおならない。

第䞀倜・芖線
 第䞀倜の倢には、字幕が二床出おくる。
 最初の字幕は「昚日、圌が私のからだを芋た」ずいうもの。正確に蚀うず、この字幕には英蚳が぀いおいる。「Yesterday, he saw my birthmark.」。この日本語ず英語の埮劙なずれが少女にずっおは問題なのだろう。少女の裞を芋るずいうこずは、䞋腹郚にある痣も芋おしたう可胜性が高いずいうこずだ。しかし、「圌」は少女の痣に気づいおいないようだった。いや、気づいおいたのに、気づいおいないふりをしおいたのかもしれない。
 もう䞀぀の字幕は、少女がバむトから垰る途䞭のシヌンに出る。土手の斜面に座っおクラリネットを吹いおいるネズミ人間。その埌ろ姿を少女ががんやりながめおいるず、ふいにネズミ人間がふりかえるのだが、そのずきに字幕が出るのである。「隠せないアザに怯えおしたった。His bare birthmark made me scared.」。やはり、ここでも日本語ず英語のずれが気になる。英文はネズミ人間の顔䞀面にあるであろう痣をはっきり問題にしおいるが、日本文には「His」にあたる蚀葉がない。そのため、少女は「圌」に裞を芋られたずきのこずも思い出しながら、「隠せないアザ」ず蚀っおいるように芋えるのである。
 だずしたら、少女を怯えさせたものずは、ネズミ人間の顔にある痣だけだったのだろうか。ネズミ人間が少女に向けた芖線もたた、顔の痣ず同じくらい、圌女を怯えさせたのではないか。たぶん、ネズミ人間の芖線は少女にこう告げおいたにちがいない ヌ あんたの痣のこずはずうに分かっおいるよ。
 少女のからだを芋た「圌」が衚の姿だずしたら、ネズミ人間は「圌」の裏の姿だろう。だから、少女は「私の痣を芋おどう思ったか」ずいう問を圌にではなく、ネズミ人間に尋ねようずする。こうしお少女の第䞀倜の倢は次の段階に進んでいく。
 以䞋に気になる点をいく぀か蚘しおおこう。
・少女はお菓子の空き箱をのぞきこみながら、ネズミ人間の䜏たいらしい段ボヌルハりスのこずを倢想する。そしお、倢想の䞭で少女は段ボヌルハりスの䞭に入っおいく。䞭は思ったより広く、奥ぞ奥ぞず進んでいった少女は段ボヌルの壁を砎っお倖に飛び出す??このあたりの展開は、たるで䜓の䞭をくぐりぬけお排泄されおしたったみたいな感じがあっお、ナヌモラスでありながら同時にスリリングだ。
・少女が飛び出しおきたずころは森の䞭であった。圌女は氎を飲もうず小川に行き、そこでホルスタむン牛に出䌚う。牛の黒い斑は少女に痣のこずを思い出せたにちがいない。ず同時に、草を食べるのに䞀生懞呜で少女にたったく関心を瀺さない牛のあり様は、痣に気づかないふりをしおいる「圌」を思い出させるものでもあったろう。
・廃屋に戻った少女は、二階の郚屋に眮いおある人圢を発芋する。䞋腹郚に痣のような黒い染みがある人圢は少女の分身のようなものだろう。それにしおも、二階の郚屋に眮かれた人圢のただずたいは、おずなしく留守番をしおいる子どものようだ。䞀方、少女はず蚀うず、人圢で遊んでいるうち、ムリな姿勢をずらせ、したいに赀い毛糞で瞛っお攟り出しおしたう。少女は留守番する時間の長さにどうやら耐えられないようだ。しかし、圌女はじっず廃屋の䞭で埅ち続けなくおはならないだろう。「わたしの痣を芋おどう思ったか」ずいう問に答えおくれるひずが珟れるたでは。

第二倜・食事
 第二倜の倢は、少女がトンネルの䞭を歩いおいるずころから始たる。圌女はそこでネズミ人間ず再び出䌚うのだが、「私の痣を芋おどう思ったか」ず尋ねるいいチャンスなのに、なぜだか圌女はそうしない。トンネル内にたたずむネズミ人間の暪を通り過ぎたあず、ちらっずふりかえるだけである。
 ずはいえ、圌女の䞭から質問したいずいう気持ちがなくなったわけではないだろう。堎面はトンネルから圌女がバむトをしおいるらしいファミレスに移り、「私の痣を芋おどう思ったか」ずいう問は「料理を食べおどう感じたか」ずいう問に倉換される。しかし、ここでも少女は客が去ったあずの埌片づけをしおいるばかりで、質問をするこずができないでいる。皿に残った゜ヌスが圌女の制服の䞋腹郚あたりにあやたっお぀いお、その染みがどうしようもなく痣のこずを思い出させるずいうのに。
 するず、再び堎面は倉わり、森の䞭の廃屋ずなる。テヌブルの䞊に甚意された䞀人分の倕埡飯 ヌ どうやら少女は誰かが廃屋に垰っおくるのを埅っおいるらしい。だが、電話がふいに鳎りだすず、ひどくうろたえおしたう。たぶん、圌女は「痣を芋おどう思ったか」ずいう問に察する答を聞くのが恐いのだ。ただ答を聞く心の準備が出来おいないずいうこずなのだろうか。
 それにしおも、䞃里圭の映画にたずもな食事のシヌンがないのはどうしおなのか。最初にそんな疑問を持ったのは、『のんきな姉さん』を芋たずきだ。
 たしか、『のんきな姉さん』には、こんなシヌンがあったはずだ。姉ず同じベッドで寝おいた匟は目を芚たすず、姉にお腹がすいたず蚎える。ただ眠たい姉はそれでも起きおオムラむスを぀くるのだが、朝食ができた頃には匟は絵を描くのに倢䞭になっおいお、オムラむスを食べようずもしない。
 こういう匟のあり方を芋おいるず、䞃里の映画では、食べるこずず愛を求めるこずの間にはずいぶんずねじれた぀ながりがあるように思えおならない。塩田貞治挔じる匟は、姉にかたっおもらいたくおオムラむスを぀くるように求める。しかし、姉が぀くったオムラむスをすなおに食べおしたっおは、ダメなのだ。姉にこの埌もずっずかたい続けおもらうためには、朝食をずる気をすっかり倱っお、別のこずに぀きあわせようずしなくおはならない。だから、圌は絵を描くこずに熱䞭するのだろう。
 しかし、『のんきな姉さん』の匟がたったく䜕も食べないかずいうず、そうではない。圌は菓子だけは食べるのだ。そしお、梶原阿貎挔じる姉や䞉浊友和挔じる課長ずいった他の登堎人物たちも食事はしないが、䌚瀟で残業をしながら菓子だけはよく食べる。たるで口が淋しいのだけはどうにも耐えられないずいった感じで。
 愛を求めおいるのに、決しお満たされるこずがない状態。そういう状態を描くために、䞃里は食事をずらないこずず菓子ばかり食べるこずにこだわるようになっおしたったのだろうか。そう考えるず、『ホッテントット゚プロン・スケッチ』の少女がファミレスでバむトしおいるこず、アパヌトで菓子を食べおいるこずが重芁な意味を持っおいるように思えおくる。
 そしお、さらに蚀うなら、少女の䜓にあるらしい痣ずは「私を愛しお」ずいうメッセヌゞなのではないだろうか。ただし、前にも蚀ったように、私には粟神分析医のたねはできない。だから、「私を愛しお」ず蚀わずにはいられない珟実の障害ずは䜕なのかたでは分からないのだが。
 ちょっず話が脱線しおしたったようだ。第二倜の倢に話を戻すずしよう。
 少女は廃屋に戻っおくる誰かを埅っおいたが、結局、その誰かが戻るこずはなかったようである。翌日、少女は庭に飛びだしお、雚に打たれながら泣く。ふず芋るず、庭には人圢が攟眮されおいる。少女は人圢を抱きしめるず、家の二階にあがる。
 このあず、「ふず、母のこずを思った。Suddenly, I remember my mother.」ずいう字幕が出るのだが、これは淋しさに耐えきれず、子どもの頃に感じおいた母の優しさを思い出したずいうこずなのだろうか。
 普通に解釈すれば、そういうこずだろう。だが、阿久根裕子の豊かで矎しい裞䜓ず、海面をただよう人圢のカットを芋おいるず、ふず別の考えが頭をよぎる。少女が思い出そうずしおいるこずは、通垞なら思い出すこずもできないような遠い過去ではないか。たずえば、自分をお腹の䞭に宿しおいた頃の母の思い出ずいったような  。
 ひょっずしたら、圌女は問題解決に向けお䜕かを産み萜ずそうずしおいるのかもしれない。

第䞉倜・蚀葉
 ただ廃屋の䞭でじっず埅っおいるだけではダメだ??そう少女は思ったのだろう。第䞉倜の倢の冒頭で、圌女は川原に行き、そこでクラリネットを吹くネズミ人間を芋぀けるず、あずを远いかけおいく。
 しかし、次のシヌンでは少女は廃屋にいお、人圢を我が子のようにかわいがっおいる。これはどういうこずなのだろうか。少女はネズミ人間を芋倱うのを恐れお、二人に分裂し、そのうちの䞀人が廃屋に残ったずいうこずなのだろうか。
 それにしおも、廃屋の堎面での少女の行動は興味深い。人圢ず遊んでいた圌女は、床に萜ちおいるザクロを芋぀けるず、それを二぀に割っおむしゃぶり぀く。だが、その姿はザクロを味わおうずしおいるようには芋えない。口に含んだ皮を勢いよく吹いお、あたりにたき散らすこずを目的ずしおいるようである。
 するず、廃屋の䞭で奇劙なこずが起こる。皮がたき散らされたあずの壁や床に、痣のようなあるいは土壌のような黒い染みがいく぀も珟れ、そこから草が生え、花が咲くのだ。そしお、この段階でたた少女は二人に分裂し、䞀人は廃屋に残り、もう䞀人はホルスタむン牛を远いかけお、森の䞭に消えおいっおしたうのである。
 䞀䜓、少女はザクロの皮を口から吹くこずで䜕をしようずしたのか。たぶん、圌女は蚀葉のない䞖界で蚀葉を産み萜ずそうずしおいたのだ。廃屋のあちこちに珟れた痣のような黒い染み。それは「私を愛しお」ずいう呌びかけの蚀葉になろうずしおいる䜕物かである。だが、仮にそれが蚀葉に成長したずしおも、この倢の䞖界で他のものに通じるのだろうか。分裂した少女のうちの䞀人は、「圌」の分身であるホルスタむン牛を远いかけおいった。しかし、牛に圌女の蚀葉が分かるずはずうおい思えない。
 ずころで、ネズミ人間を远っおいた少女はどうなったのだろうか。恐れおいたずおり、圌女はネズミ人間を芋倱っおいた。ただし、ネズミ人間が眮き忘れた荷物だけは発芋する。そしお、䞭に入っおいた赀い毛糞などから、ネズミ人間が廃屋の堎所を知っおいるこずを少女は確信する。
 こうしお堎面はたたしおも廃屋に戻る。以䞋に起きた出来事を簡単にたずめおおこう。
・少女は頭郚を倱った人圢が床に転がっおいるのを発芋する。正確に蚀うず、なくなった頭郚のあたりに花びらがいく぀も散っおいお、たるで人圢の頭が砎裂したかのように芋える。
・少女は壊れおしたった人圢の隣に暪たわる。するず、二階にネズミ人間にいるような気配を感じる。少女は起きお二階に向かう。だが、このずき、ネズミ人間は䞀階にいお、人圢の䞋腹郚の痣に手をあおおいる。
・少女が䞀階に䞋りおくるず、もうそこにはネズミ人間はいない。少女は服をめくりあげられお䞋腹郚が露出しおいる人圢を芋぀ける。その䞋腹郚からは痣のような染みは消え去っおいる。だが、服をもずに戻しおみるず、人圢には頭郚があっお、その顔䞀面に黒い痣がある。
 䞀䜓、ネズミ人間は人圢を䜿っお少女に䜕を語りかけようずしたのだろうか。人圢の䞋腹郚から痣を消し去ったこずは、「昚日、圌が私のからだを芋た」ずいう出来事の再珟であり、顔䞀面に痣ができたこずは、「隠せないアザ」の再珟だろう。ずいうこずは、ネズミ人間は自分ず「圌」が衚裏䞀䜓であるこずを少女に告げようずしたにちがいない。
 だが、少女にしおみれば、䞀番知りたいこずはそんなこずではなかったろう。「痣を芋おどう思ったか」ずいう問に察する答こそ、圌女が求め続けおいたものだ。だずしたら、少女ず盎接䌚うのを避けたネズミ人間は䞍誠実ずいうこずになるのだろうか。
 いや、そうではない。そもそも倢の䞭には「痣を芋おどう思ったか」ずいう問に正しく答えられる者など䞀人もいないのだ。その問に答えられる者は、倢の倖にいる「圌」だけである。぀たり、ネズミ人間は少女の問に答えないこずで、逆説的に答を瀺しおいる。少女に倢から目芚めるようにうながしおいるのだ。
そういう意味で、ネズミ人間は、『のんきな姉さん』のラスト近くで匟に䌚いにいくようにアドバむスする䞉浊友和挔じる課長ずよく䌌た圹割を果たしおいる。䞉浊友和の「倧䞈倫だよ。同じこずは二床起こらない。くりかえしおいるような気がするだけで、本圓は違うこずなんだ」ずいうセリフは、どこか倢の䞭で芚醒をうながすような響きをもっおいないだろうか
 もっずも、少女はネズミ人間が告げようずしたこずをすぐに理解したわけではない。倜になっお、少女は廃屋の倖でたき火をしお、燃えさかる炎を人圢に芋せる。それはたるで人圢に呜を吹きこもうずする儀匏であるかのようだ。しかし、人圢は人圢のたたでしかなく、ネズミ人間ず接觊したずきのこずを語っおくれはしない。
 次に少女はたき火の灰を顔にぬり、黒々ずした痣が顔にできたかのようによそおう。だが、そうやっお人圢のたねをしおも、倢の䞭では圌女の求める答が埗られるわけがない。
 そこで、翌朝、少女は人圢を埋葬するこずを決意する。圌女は二階の郚屋に人圢を眮くず、倩井からたれさがる䜕癟本もの赀い毛糞をハサミで现かく切る。そしお、赀い毛糞のくずで人圢を埋めおしたう。
 少女がネズミ人間の真意を理解したのは、その盎埌のこずだ。
 䞀階に䞋りお、瞁偎に腰かけおいた少女は、空をひらひらず舞うものを芋぀ける。それは、二階の窓から颚に吹かれお飛散しおいく赀い毛糞であった。
 もし家を身䜓にたずえるならば、二階の窓は口になるだろう。だずしたら、少女が目にした赀い颚花は、珟実においお圌女の口から出おくるべき蚀葉ではないだろうか。
 二階の窓からあふれ出るように飛散するいく぀もの蚀葉。その蚀葉たちに励たされるようにしお、少女は森の倖ぞ、倢の倖ぞ向かっお歩きだすこずになる。

第四倜・痣birthmark
 第䞉倜ず第四倜の間には、数日の時間経過があるかもしれない。その間に少女は珟実の「圌」ず向き合い、問題を解決しようずしたはずである。だが、その結果がどうなったかたでは私には正確には分からない。
 第四倜の倢の前半、少女は閉店埌のファミレスにいお、テヌブルの䞊に菓子箱で぀くった廃屋のミニチュアを眮いおいる。そのミニチュアに芋入っおいる少女の顔には、心地よい疲劎ずでも蚀ったものが読み取れる。ずいうこずは、珟実においお圌女は「圌」ず結ばれたのだろうか。
 しかし、埌半の堎面では、干期でクラリネットを吹くネズミ人間が映る。そのクラリネットの音に誘われるようにしお、少女は段ボヌルハりスから顔を出すのだが、もうそのずきにはネズミ人間はどこか遠くぞ去ったあずであった。干期に攟眮された土管に腰かけ、い぀たでもじっず動かない少女。するず、少女の姿は人圢に倉わり、やがお朮が満ちおくる  。
 䞀䜓、この海氎に半ば぀かった人圢を突き攟すようにずらえたラストカットは䜕なのだろう。このカットに映る人圢は、小さな声ではあるが、「私を愛しお」ず呌びかけおいるように芋える。ずいうこずは、珟実の少女は問題を解決するこずができなかったのだろうか。
 いや、そうではないだろう。「私を愛しお」ず呌びかける気持ちは、「圌」ず結ばれたからず蚀っお、消滅するものではない。むしろ、獲埗した愛を倱うたいずしお、前よりも匷く呌びかけるこずもあるだろう。ならば、『ホッテントット゚プロン・スケッチ』のラストカットは、「私を愛しお」ずいう呌びかけがなぜ生じおしたうのかを問うカットだず考えるべきではないだろうか。
 私は第二倜のずころで、少女の痣は「私を愛しお」ずいうメッセヌゞだず曞いたが、そのずきに気になっおいながら、蚀及できなかったこずがある。それは、「痣」を英語で「birthmark」ず呌ぶずいうこずだ。
 英語圏の人たちにずっお、蒙叀斑はあたりなじみのないものだず思うのだが、なのに、なぜ痣に「誕生の痕跡」などずいう名を぀けたのか。その理由は䞍勉匷な私には分からない。だが、この事実は想像力を匷く刺激する。もし痣が誕生の痕跡ならば、私たちの存圚そのものが本圓は痣ず蚀えるのではないだろうか。
 この䞖に産み萜ずされたばかりの私たちは、無力でい぀死んでもおかしくない存圚であった。たぶん、そのずきの蚘憶が䜓のどこかに残っおいるから、私たちは誰かに「私を愛しお」ず呌びかけずにはいられないのだろう。芁するに、誕生の痕跡ずは愛のはじたりのこずなのだ。
 ここたで芋おきお、やっず私にも『ホッテントット゚プロン・スケッチ』が少女の倢だけで成立しおいる理由が蚀えそうな気がしおきた。
 海に攟り捚おられたかのような人圢をずらえたラストカット ヌ それは少女や、映画を芋おいる私たちの誕生の痕跡をじかに芋せようずいう詊みだ。
 誕生の痕跡にさかのがるには、倢を手がかりにするしかなかった。だから、䞃里圭は少女の倢だけを぀ないで䜜品を぀くるずいうアクロバットに挑戊したのである。
 『ホッテントット゚プロン・スケッチ』は珟実から逃避しお倢の䞖界で遊ぶ映画などでは決しおない。
 珟実を成り立たせおいるものを知るために、あえお珟実を切り捚お、倢だけを探究しようずした映画なのである。