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ホッテントットの夏 その2
三梨朋子
・・・主演女優と芸術家達・・・

 さてさて、主演女優と監督と三人、人形作家の清水さんのアトリエを大泉学園に訪ねた日。駅から徒歩十分ほど、とあるアパートの一部屋を制作の場にしている清水さん。部屋中に、過去に作ったお人形達や、今制作中の人形のパーツ、またはその材料、様々な創作に関わる資料や本が溢れるように置かれた彼女のアトリエ。制作が忙しくなると、殆どの時間をここで過ごし、夜もこのアトリエで寝袋しいて寝る事も多いとか・・・。

 今日、ここに主演の阿久根さんを連れて監督とやってきたのは、清水さんに阿久根さんをモデルに巨大な球体関節人形を作てもらうため。まず清水さんに阿久根さん本人と直接会って生の印象を受け取ってもらいたい、という七里監督の希望あってのこと。

 この日の打ち合わせは監督の狙い通り、清水さんは阿久根さんからかなり強い印象を受けた様子。正直、これにはほっとしました。

 日ごろ、「役者になりたい」と思っている人達に割と多く接しているが、役者の素質とは、演技が上手いとか、容姿が綺麗だとか、勿論それも大切だが、他にももっと大切なものがあるんですね。阿久根さんはまだとても若いけど、芸術家の創作欲を喚起させる不思議なオーラがあるんです。

 さてこの日はさらに、阿久根さんの衣装作りのため、彼女のサイズも測らなくてはならない。私は緊張しながら阿久根さんの体にメジャーを当てる。清水さんも、人形作りの資料として、阿久根さんの裸の写真を撮影する。初対面の人間に囲まれ裸をさらさなくてはならない、さすがに阿久根さんもそうとう緊張したと思う。この場で唯一の男性だった七里監督は、扉の向こうで待機。一人、ぽつんと残された監督、この時すごく寂しそうな表情してました。


・・・里香の幻想の家へ・・・

 次第にクランク・インが迫ってくると、準備もどんどんヒートアップしていく。今回、映画の中で一番の見せ所なのが、スタッフ総出で行った手作りの美術。その際たるものが、お菓子の箱で作られた理香の幻想の家でしょう。

 この幻想と現実の境目のない摩訶不思議な世界を、一体どう映像化するのか。これには監督はもとより、スタッフ一同、最初から最後まで本当に苦労の連続。CGとか使えば簡単だが、勿論監督の頭にそんな考えははじめから存在しなくて。しかも今回は、美術専門のスタッフは一人もいないのです。あえて専門の美術部を入れないで、何処まで自分達の手で思いどうりにやれるか。今回はどうしてもそうしたかった、と後で監督は語っていましたが・・・。

 この幻想の家のロケ地は、2005年の年末に取り壊す予定の写真家・宮沢豪さんのご両親の別荘。今回取り壊し前の数ヶ月間、火事さえ出さなければ好きにしてもよいという条件で、フル活用させてもらった物件。

 もしもこの別荘がなかったら・・・そんな想像が出来ないほど、『ホテントットエプロン-スケッチ』はこのロケ地あっての映画。観客の皆様には、主人公里香の心理状態を映し出すように変化していく、生き物のような幻想の家を、是非じっくりと味わってもらえたら嬉しいです。


・・・お牛様騒動・・・

 牛の、それもホルスタイン牛の肌に浮かぶあの白黒の不思議な模様。自分を牛の娘だと思い込んでいる、主人公理香の体の痣の象徴として、この映画には、ホルスタイン牛の生の存在感がどうしても必要だった。

 小説では「牛」を形容する言葉を使えば、比較的簡単にあの巨大な体の生々しさを表現出来るかもしれないが、映画の作り手は、CGでも使わない限り、本当に「牛」を撮影しなくてはならない。そもそも最初に渡されたプロットでは、「牛」が理香の幻想の家の庭に飼われている設定。と言うことは、そうです、ロケセットの別荘に、本物の牛を連れてこなければならないのだ。

 撮影を知らない方ならば、これがたいした事とは思われないかもしれませんが、「犬」とか「猫」ではないんですよ、生きている本物の「牛」なのですから!!

 そしてこの牛騒動で必ず思い出されるのが、「牛」調達を担当した制作・平林さんの汗と涙。七里圭監督の映画制作を、影になり、陰になり、そしてずっと陰になって支えに支えてきたスタッフの中心人物。ぎりぎりの制作費の中で、あの巨大な、しかも実際はかなり凶暴だというホルスタインの雄牛を、どこからどうやったら撮影にお借りできるのか?? しかも今回は、動物プロダクションを使うことはあえてしない。「牛」の手配を任された平林さんは、本当に困っていた。

 でも何もしないで、ただ「無理です。」と言うわけに行かないのが、制作部さんのつらいところだし、腕の見せ所でもあるのです。一体平林さんがどんな解決策を見つけてくるのか、クランクインをあと一ヵ月後に控えたその日、すでに真っ暗になった別荘の庭で、牧場に向かったきりなかなか戻ってこない平林さんを、監督始めスタッフ一同、今か今かとじっと待っていました。そして小一時間が経ったでしょうか。疲れた顔で牧場から戻ってきた制作の平林さん。報告の結果は、やはり「牛を借りるのは難しい」と言うこと。

 宮沢さんの別荘は舗装道路からかなり離れた傾斜した林にあり、「牛」を運んでくるための通路がない。平林さんが牧場のオーナーから聞いた話によると、「牛」は体があまりに巨大なため、傾斜のきつい坂道やコンクリートを歩かせると足を傷めてしまう。したがって新しく道を作るでもしない限り、この別荘で撮影するために「牛」を連れてくるのは殆ど不可能だという。

 またああ見えて、実際にはかなり凶暴だという雄牛に、この撮影体制で、どうしたら大人しく言う事を聞いてもらえるのか?? 撮影中にもし「牛」に万が一のことがあったら?? またもし「牛」が暴れて阿久根さんやスタッフの中に怪我人が出たら?? 心配性の私は、すでに諦めモード。 しかしさすが完全主義者の七里監督。その報告を聞いて、「そうか、仕方ないね。」と簡単に諦めるような監督ではありません。やはり「牛」は映画にとってはどうしても必要なモチーフ。無理を何とか捻じ曲げてでも、映画のためにここで妥協はしたくはありません。平林さんを囲み、「平林、本当に何とかならないのか?!」と問い詰める七里さん、高橋カメラマンはじめ主要スタッフ達。傍から見るとまるで、皆で寄ってたかって平林さんを苛めているように見えなくもない、この時の光景。

 しかしです、こういう創作の理想と現実のぶつかり合いの中からこそ、本当のクリエイテビティが生み出されてくるのだ。帰りの車の中で、「牛、どうしたらいいだろうね??」と私が平林さんに気を使って話しかけると、「いや、七里さんのすごいところは、ここからなんですよ。いつも、必ず何かしら新しい凄いアイデアを出してくるんだから。」と至極冷静。こんな事、慣れてます、と言う雰囲気。七里さんもツワモノならば、平林さんも相当タフ。やはり制作スタッフは、こうでなくては務まりません。 いやー、芸術家肌の七里監督と、現実と常に向き合わざる得ない制作平林さんのこういったやり取りは、この映画制作中、最後までずっと続いていくのでありました。